「遺言書は自分で書いて、ハンコを押さなければならない」――。これまで長く日本の法律における遺言書作成の基本とされてきたこのルールが、大きく変わろうとしています。2026年6月17日、自筆証書遺言の押印義務を廃止する改正民法が成立しました。これにより、遺言書作成のハードルが一段と下がり、より多くの方が気軽に終活に取り組めるようになることが期待されます。
今回は、この民法改正の具体的な内容と、いつから適用されるのか、そして遺言書を作成する上での注意点について、相続専門の弁護士がわかりやすく解説します。
自筆証書遺言の「押印」が不要に!
これまで、自筆証書遺言を作成する際には、遺言者がその全文、日付、氏名を自書し、さらに「押印」することが必須とされていました。この「押印」は、遺言書が本当に本人の意思で作成されたものであることを示す重要な要件の一つでした。
しかし、2026年6月17日に成立した改正民法により、この押印が不要となることが決定しました。これは、遺言書作成の負担を軽減し、高齢者や病気などで手が不自由な方でも、より容易に遺言書を作成できるようにすることを目的としています。
いつから適用される?
今回の改正のうち、自筆証書遺言の押印廃止については、法律の「公布から1年以内」に施行される予定です。具体的な施行日は今後定められますが、2027年の早い時期に適用が始まる見込みです。
「手書き」のルールは維持されます
押印が不要になる一方で、自筆証書遺言の基本的な要件である「全文、日付、氏名を遺言者本人が手書きする(自書する)」というルールは、引き続き維持されます。 つまり、遺言書の内容全体をパソコンで作成することは認められません。パソコンで作成した遺言書を保管したい場合は、後述の「保管証書遺言」という新しい制度の利用を検討することになります。
財産目録の取り扱い
以前の改正により、自筆証書遺言に添付する「財産目録」については、手書きでなくても良くなっています。パソコンで作成したり、不動産の登記事項証明書や預貯金通帳のコピーを添付したりすることが可能です。今回の改正では、この財産目録についても、各ページへの「押印」が不要となり、署名のみで足りるようになります。
なぜ今、遺言制度が変わるのか?
今回の民法改正の背景には、日本の高齢化社会の進展やデジタル社会への対応があります。
高齢者の中には、多くの財産をすべて手書きするのが体力的に困難な方や、病気や加齢で手が震え、文字を書くこと自体が難しくなっている方も少なくありませんでした。従来のルールは、こうした方々にとって遺言作成の高いハードルとなっていたのです。押印義務の廃止は、そうした方々の負担を軽減し、より多くの方が自身の意思を遺言書として残しやすくするための重要な一歩と言えるでしょう。
遺言書作成の注意点
今回の改正で自筆証書遺言がより身近になる一方で、注意すべき点もあります。
施行日までは「押印」が必要です
最も重要な注意点は、押印廃止のルールは「施行日以降」に作成される遺言書に適用されるという点です。現時点(2026年7月)ではまだ施行されていませんので、今、自筆証書遺言を作成する場合は、必ず押印が必要です。施行日前にハンコを押さずに作成された自筆証書遺言は、無効と判断される可能性がありますので、十分にご注意ください。
内容の有効性は保証されません
押印が不要になることで作成の負担は減りますが、遺言書の内容が法的に有効であるか、他の相続人の遺留分を侵害していないかといった点については、ご自身で確認する必要があります。法務局は遺言書の形式的な要件を確認し保管するだけで、内容の有効性まで審査してくれるわけではありません。
紛失・改ざんのリスクはゼロではない
自筆証書遺言は、自宅で保管することも可能ですが、その場合、紛失したり、第三者によって改ざんされたりするリスクは依然として存在します。こうしたリスクを避けたい場合は、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用したり、公証役場で「公正証書遺言」を作成したりするなどの選択肢も検討すると良いでしょう。
まとめ
2026年6月に成立した民法改正による自筆証書遺言の押印廃止は、遺言書作成をより手軽にする画期的な変更です。しかし、施行日までは現行のルールに従う必要があること、また遺言書の内容の有効性や保管方法については引き続き慎重な検討が求められます。
ご自身の状況に合わせた最適な遺言書作成方法を選ぶために、ご不安な点があれば、ぜひ朝日弁護士法人 調布武蔵野の森オフィスにご相談ください。
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